属性で切り取るのはやめましょう。

弁護士がウィキを書き写したとしてニュースになっています。

奈良県大淀町の町立大淀病院で2006年8月、出産中の妊婦が19の病院に転院の受け入れを断られた末に死亡した問題で、遺族が町と担当医師に約8800万円の損害賠償を求めた訴訟で、被告の大淀町側の代理人が事実と異なる経緯を準備書面に記載していたことがわかった。

 誰でも書き込みができるインターネット上の百科事典「ウィキペディア」からそのまま引用していた。今後、大阪地裁に上申書を提出し、この部分を訂正するという。 [2009.12.22 asahi.com]


この弁護士は、医療訴訟の書籍も執筆しているようです。
日弁連の弁護士サーチ(http://www.nichibenren.or.jp/bar_search/index.cgi
で検索したところ、登録番号は10000番台で、恐らく弁護士40年目くらいかと思われます。



私は、この方を批判するつもりはありません。
ニュースの文脈からすれば、訴訟に影響がない部分のようですし、
詳細を知らない以上、さして興味はありません。
むしろ40年目でウィキを使いこなしていることに敬意を表するくらいです。皮肉ではなく。
ほめられたことではありませんが。



私がこのニュースを取り上げたのは、別の理由です。
今回のニュースにつき、なぜ誰も、
「だから10000番台はだめなのだ、40年目の弁護士はだめなんだ、昔の弁護士はだめなんだ、男の弁護士はだめだ、旧司法試験組は常識がない」などとたたかないのでしょうか




少し前、札幌で覚せい剤を使ったとして、弁護士が起訴されました。

覚せい剤取締法違反(譲渡、使用、所持)の罪に問われた札幌市中央区の弁護士・加藤恭嗣被告(51)=札幌弁護士会副会長を辞任=の初公判が7日、札幌地裁(中川綾子裁判官)であった。加藤被告は「違っているところはありません」と起訴事実を認めた。検察側は「事件当時、弁護士会副会長の要職にあり、弁護士の信頼は大きく損なわれた」と懲役2年の実刑を求めた。弁護側は執行猶予付きの判決を求め、結審した。判決は11日の予定。[2009.12.8 asahi.com]

この事件が報道されたときも、誰一人
「だから副会長はだめなんだ、だから札幌の弁護士はだめなんだ、だから50歳前後の弁護士はだめなんだ、男の弁護士はだめなんだ、旧司法試験組は常識がない」

とは騒ぎませんでした。



さて、
私はそのように騒ぐべきだと言っているのではありません。


この二つの事件の弁護士が、仮にロースクール出身の、新司法試験組で、新卒の、女性の、20代の弁護士だったと想像してみてください。特に最初の事件。


想像するにもの凄いバッシングが始まるでしょう。
そしてそのときの報道・ブログにおける批判は、ほぼ全てが
「だから、ロースクールはだめなんだ、新司法試験組は常識がない、新卒は常識がない、女性は弁護士として適格が無い、20代の若造は弁護士をやる資格がない」となり、挙句の果てには、ロースクール制度廃止論の根拠に使われたりするわけです。


ある人のある事件を、その人の属性で切り取って取り上げることは、極めて容易で、しかも一見説得的です。


けれども、そこには何の科学性もありません。
若者やロースクールをバッシングしたいときに、そこを切り取るだけです。その人の別の属性をバッシングしたいときには、そちらの属性を切り取ります。


若者や、ロースクールや、女性や、新卒は、バッシングしたい属性だけれども、老人で、500人時代の合格者で、男性で、社会人経験があったりすると、それは、バッシングしたい属性ではないので切り取られません。だって、報道している人が、老人で、男性で、社会人だからね。



犯罪も同じです。秋葉原事件のときに、派遣社員という属性を切り取った報道もありましたが、あれは派遣制度を問題視している人たちが意図的に切り取っただけです。


属性で切り取った犯罪報道は、典型的な差別の助長です。
かつては、いわゆる被差別部落民や外国籍の人が犯罪を犯すたびに、属性で切り取った報道がされていました。


100年前は、体型や頭の形で犯罪者を分類していたこともあります。


私は、属性が報道にくっついてきたときには、疑いの目で見るようにしています。
そこには、意図的にせよ、無意識にせよ、差別の萌芽が見て取れます。


事実を属性で切り取るのはやめましょう。
属性で分析してよいのは、多数のデータを集めてからです。



ではまた。