勾留及び勾留理由開示、そして権力の腐敗

先日、「勾留理由開示」期日に出頭した。
人は、逮捕されると、警察署にぶちこまれる(本当は原則として拘置所なんだけど、現状は原則警察署となっている。これはこれで一つの問題だが、措く)。


昨夏のノリピー・押尾ブームのときに、多くのワイドショーで説明してた(らしい)から、国民的に有名になっているかもしれないけど、逮捕によって警察署にぶち込まれるのは、2日間程度だ。

酔って喧嘩して警察官に止められてつかまって相手がたいした怪我じゃないときとか、酔って人の家の芝生で寝てて通報されたときとか、昔の麻雀賭博(確か蛭子さんが昔捕まってた)とかそういったときは、大体1,2日「豚箱に入れられて」釈放される。


もう少し重い事件、複雑な事件、否認する事件、別の事件で自白させたい事件などでは、2日経った後、「勾留」という手続きに移行する。勾留は逮捕と連続しているので、10日間「豚箱」に入る期間が延びるという感じだ。


ちなみに、逮捕も勾留も、決定するのは、裁判官だ。警察官や検察官は、あくまで逮捕をしたい人、勾留したい人について、逮捕・勾留させてくれ、と裁判官にお願いする。そのお願いを聞くかどうかは裁判官次第、と言うことになっている。



勾留をするためには、大きく3つの条件が必要だ。

1つ目は、犯罪を犯したと思われること。
当たり前の条件だ。何もしていないのに逮捕・勾留されたらたまったもんじゃない。ただ、勾留時の要件としての「犯罪を犯したこと」は、後の裁判で綿密に判断されるのと異なり、あくまで「犯罪を犯した」と「疑われること」があればいい。厳密に、「必ずやった」ことまでは、条件となっていない。
警察官や検察官は、「こいつは犯罪を犯しただろう」という見込みで逮捕・勾留を請求するわけだが、その見込みが本当に根拠のあるものなのかどうかのチェックを第三者がするわけで、その第三者が裁判官ということだ。外部の決裁官。
裁判官は、本当にその人が犯罪をしたと疑われると言えるか、を証拠を基にチェックする。
この要件は、必ずなければいけない。


2つめは、証拠を隠滅する恐れがあること。
これは勾留の意味合いから来る条件だ。そもそもなぜ犯罪を犯したと「疑われる」だけで身柄を拘束されなければならないか。
勾留は決して刑罰ではない。あくまで将来行われるかもしれない刑事裁判を適正に実現するために行われるものだ。
刑事裁判においては証拠を以って事実を認定する。だから、証拠を隠滅されると、刑事裁判が適正に行われない。しかも、「犯罪を犯したと思われる人」は、当該犯罪についてもっとも事情を知っている。だから、証拠の隠滅もお手の物だ。
そこで、具体的に隠滅が想定されるような証拠がある場合には(たとえば、捜査機関にはばれていない、友達に預かってもらっている覚せい剤を、便所に流してもらうことは、容易だし、ありえることだ)、勾留することができる。


3つめは、逃げること。
刑事裁判は、被告人がいなければ始まらない。被告人が逃げてしまうと裁判は出来ない。
だから、具体的に逃げる恐れがある人の場合は、身柄を確保して裁判に備えることになる。
なお、住所不定の人間は、任意に裁判所に来てもらうことが類型的に困難なので、独立の勾留の要件となっている。

後二者(証拠隠滅・逃亡)は、どちらかひとつがあればいい。


いずれにせよ、勾留するには、まず罪を犯したと疑えるかを確認して、その上で、証拠を隠滅するか逃げるか、どちらかの事情が必要となる。



少し長くなったが本題。
以上のように、勾留をするからにはしっかりと理由がなければならない。いきなり10日間も社会から隔絶させられるのだから当然だ(ちなみに10日は結構長い。無断欠勤は許されない時間。適当な理由も作りづらい)。

裁判官は、検察官から勾留の請求が来た際に、上記のような要件がしっかりあるかを確認して、勾留の令状を出す、ことになっている。
しかし、日本の裁判官は、ひたすら勾留令状を出す。検察官の勾留請求が認められない率(勾留請求却下率という)は、1%足らずだ。100回請求したら、1回だけ認められないというレベル。


これには、2つの理由がある。
1つは裁判官が忙しすぎること。裁判官は、令状担当の日には一日で20件程度の勾留案件を判断する。
1件30分かけたら、10時間かかる。しかも勾留は、原則としてその日のうちに判断しなければならない。当然、最後はやっつけ仕事になる。

2つは、検察官が組織的に準抗告をすること。上記のように裁判官は最後のところは、やっつけになる。そのときに何を考えるか。まよったら検察官に有利に行うのだ。なぜかというと、検察官は勾留請求が却下されたら、基本的に準抗告という不服申し立て手続きを行う。同手続きは、控訴と似たようなもので、勾留請求を却下した裁判官の判断はおかしい、といってひとつ上の手続きに申し立てる。これをやられると裁判官は困る。自分の判断がおかしいかどうかを上の人にチェックされる。仮におかしいと判断されたら小言のひとつも言われるかもしれない。他方で、勾留を認めても、弁護人がついていなければ何も言われないし、仮についていても勾留を認める決定に対する準抗告をする弁護士なんて一握りだ、だから、迷ったらうるさい検察官に有利なように処理しておこうと考えるのもやむを得ないのだ。


解決方法として、弁護人が必ず準抗告をすることが考えられる。とはいえ、準抗告が認められる可能性も極めて低いため、通常の民事事件を抱え事務所を維持するために労力と報酬のバランスを考えざるを得ない多くの弁護士にとって、徒労に終わる準抗告を必ず行うなど、不可能に近い。だからこそ裁判官が出来る限り謙抑的に勾留請求に対してチェックすることが求められるのだが、上記のとおり現在の裁判官の事件件数からすればきわめて難しいと思われる。


さて、前置きが長くなったが本題。このように勾留の理由が実質的にはないにもかかわらず勾留される事件が多い中、被疑者・弁護人としては、なぜ自分が勾留されたかを公判廷で尋ねることが出来る制度がある。これが勾留理由開示である。


つまりは裁判官に対して勾留の実質的な理由を尋ねる制度であるが、これがこっけいなまでに形骸化している。裁判官は、勾留の理由を尋ねると、「逃亡の恐れがあり、罪証隠滅の恐れがあるからである。それ以上は捜査の秘密の観点から言うことができない」としか述べないのである。どれほど具体的に尋ねても、どれほど経緯を確認しても、裁判官は「答える必要がない」と述べて一切答えようとしない。


しかし、権力が自身の権力行使について具体的な理由を述べないでいると、必ず腐敗する。理由を述べなくてよければ、本当の理由が、「面倒だから」、「被疑者・弁護人が気に食わないから」、「勾留請求を却下すると上ににらまれるから」、「被疑者は逃げるもの・罪証隠滅するものだから」、「検事が取調べをしたいといっていたから」(判事と検事は両者のみで打ち合わせをすることがある。明らかに李下に冠を正している)というものであっても、議論を避けることが出来る。そして、腐敗するのである。

それを防止するために刑事訴訟法は、勾留理由開示制度を規定したにもかかわらず、運営者と評価者がともに裁判官であるため、同規定が骨抜きにされているのである。

この問題を顕在化させるためには、マスコミに法廷に入ってもらうしかない。しかし、マスコミは報道しない。

だから、私が、非力ながら、本ブログで問題点を訴える次第である。


ではまた。