毎日新聞の記事に、欠けている視点

以下の記事を読んで違和感を抱きました。

http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20110719k0000m070107000c.html
(リンクが消されることが多いので、文末に転載します)


>亡くなった女性は再び避難することへの不安を募らせていたという。

>急激な過疎化でまちが消えるのではないか。市民たちは本気で心配している。

細野豪志原発事故担当相が2日に福島県を視察し、避難準備区域の指定を近く解除する考えを表明。
・・解除は歓迎したい。問題はそれで避難者が帰ってこられるかだ。

桜井勝延市長は5日、「子を持つ親たちは非常にナーバス(神経質)だ。東京でさえ沖縄まで避難する人がいる。低線量だと申し上げてもなかなか戻れないだろう」と語り、楽観していない。原子力災害において、政府が一片の「区域解除」を宣言したところで、すぐに人が戻ってくるとは思えない。

>土壌除染や医師が大量退職した病院の全面再開など、避難者が戻る条件整備に国は真剣に取り組む責任がある。それを怠れば、まちの消滅という市民の不安は現実となる。



提案する施策の具体的内容は、除染と病院の再開というもので、現実的な可能性もさることながらその効果にも疑問を持たざるを得ません。
いまなお放射性物質原発から飛散しているのではないか、除染の効果はどれくらいか、町中を除染するために必要な費用はどれほどか、病院を再開して本当に医師が戻ってくるのか、病院を再開すれば本当に住民が戻ってくるのか。
これらの検討はしないまま、まちの消滅だけは回避しなければならないとしています。


勿論、回避できるのであれば回避すべきです。
けれども原発事故は、多数のまちが消滅せざるを得ない出来事です。
チェルノブイリでは、458の村が消えたとされています( http://p.tl/8vJ5 )。


まちの消滅は、もはや回避することが出来ないことです。
これからどのような施策をとろうと、いくら国が安全だと叫び続けようと、
インターネットで情報を収集する若い夫婦は、放射性物質に少なからぬリスクがあることを知っています。
これから30km圏内の町に移住しようとする若年層は皆無でしょう。
子供をつれて原発の近くに観光に行く家族がいると思いますか。


政府が除染をしないから、政府が医師を呼び戻さないから、政府が適切な対策を採らないからまちが消滅するのではなく、原発メルトダウンを起こしたからまちが消滅せざるを得なくなったのです。
93歳の女性は政府が避難をさせる施策を採ったから自殺をしたのでしょうか。
避難せざるを得ない事故が起きたことに、避難により家族が疲弊していることに、社会の行く末に希望が見出せないことに、絶望して自殺したのではないでしょうか。


この記事はこの視点を欠いています。
記者があえて視点を打ち消しているのであれば原発事故を特集する記事としてあまりに不誠実だと思いますし、
この視点に気づいていないとすればあまりに勉強不足だと思います。


まちの消滅を回避することが本当に可能なのかを問わずして、産業を守るためにまちの人口を維持しようとする考えは、まちを無理して維持したことにより健康被害を蒙るかもしれない個々人の人生を蔑ろにしていると思います。
まちの存続、産業の保全という公的な利益が優先され、個々人の人生が切り捨てられる。
国家の保持・国体の護持という公的な利益が最優先された時代と、類似の様相を呈してきたようです。



ではまた。

記者の目:原発事故を苦に93歳自殺=神保圭作

 東京電力福島第1原発の事故で避難生活を強いられた福島県南相馬市の93歳の女性が「私はお墓にひなんします」と書き残し、自ら命を絶ったことを、9日朝刊で報じた。遺書に「毎日原発のことばかりでいきたここちしない」ともあった。

 ◇福島県民の悲鳴、聞き逃すな
 遺族を取材した7月5日、松本龍氏が被災地への暴言の責任を取って復興担当相を辞任した。長寿を祝福されるべき女性が自死へと追い込まれる現実と、政治家の認識との絶望的な隔たりに暗然とする。被災地は待ったなしの状況だ。取るべき策の速やかな実行が必要だ。

 ◇命を絶った意味しっかり伝えて
 亡くなった女性は再び避難することへの不安を募らせていたという。長男(72)から「悪いのは国か? それとも原発なのか?」と問われた。長男の妻(71)からは別れ際、こう言われた。「ばあちゃんが死んだ意味を、しっかりと伝えてください」


 私が担当する南相馬市は、原発事故で惨たんたる有り様だ。市域は、南部の小高区が警戒区域▽中心部の原町区が緊急時避難準備区域▽飯舘村などに接する山沿いが計画的避難区域−−に指定され、無指定と合わせて四つに分断されている。局所的に放射線量が高い「ホットスポット」も複数あり、特定避難勧奨地点が設定されようとしている。


 市の人口は今年2月末時点で7万1494人だったが、原発事故で一時は大半が避難した。徐々に戻りつつあるが、7月8日現在でも3万5222人と半分以下にとどまる。若い世代が避難を続けるケースが多いとみられ、65歳以上が占める高齢化率は震災前の25%から28%になった。


 深刻なのは働く場が減っていることだ。主要産業の農漁業が打撃を受けたうえ、自動車や機械、家電関連の部品を製造する事業所なども軒並み操業停止・縮小を余儀なくされている。市の中間報告によると、小高区で調査に応じた約180事業所のうち、警戒区域外で事業を再開したのはわずか28社。原町区では同約800社のうち4割近くが今も休業している。


 原町区のある縫製会社は、原発事故に伴う避難で従業員74人の3分の1が退社した。5月上旬に生産を再開したが、放射能の影響を懸念する大口顧客から取引停止を通告され、専門機関に商品の線量調査を頼むなど対応に追われている。会社幹部は「うちのような中小は同じ場所で続けるしかない。補償がなければ廃業せざるを得ない」と語る。


 故郷で働きたくても、その場がなければ外へ出るしかない。福島労働局によると、6月20日に受け付けが始まった県内の新規高卒者求人数は、5日間で297人と前年同期比4割減。南相馬市内の県立小高工業高校は東京で就職合宿をし、関東の大手自動車メーカーなどを見学させている。地元に見切りをつけるしかないのだ。企業も若い世代も去り、急激な過疎化でまちが消えるのではないか。市民たちは本気で心配している。


 こうした中、細野豪志原発事故担当相が2日に福島県を視察し、避難準備区域の指定を近く解除する考えを表明。16日には菅直人首相が南相馬市などに、原子炉安定冷却に向けた工程表のステップ1を「ほぼ達成できた」として19日に新たな工程表を出すと伝え、ここで解除の方針を示すとみられる。解除は歓迎したい。問題はそれで避難者が帰ってこられるかだ。


 放射線は、急性症状を引き起こさない低線量でも数十年後にがんを引き起こす可能性があるとされる。桜井勝延市長は5日、「子を持つ親たちは非常にナーバス(神経質)だ。東京でさえ沖縄まで避難する人がいる。低線量だと申し上げてもなかなか戻れないだろう」と語り、楽観していない。原子力災害において、政府が一片の「区域解除」を宣言したところで、すぐに人が戻ってくるとは思えない。


 ◇避難者が戻れる条件整備を急げ
 市民は、これまでの国の対応に不信感を募らせている。現に政府は避難準備区域を指定しながら、いざという時の避難先を最近まで示していなかった。市に常駐する原子力安全・保安院の担当者は「候補場所の自治体の説得が済んでいなかった」と説明するが、市民は「見捨てられている」との思いを深めている。


 国策として推進されてきた原発の事故が引き起こした南相馬の現実は、一地方自治体で対応できるものではない。土壌除染や医師が大量退職した病院の全面再開など、避難者が戻る条件整備に国は真剣に取り組む責任がある。それを怠れば、まちの消滅という市民の不安は現実となる。


 「お墓にひなんします。ごめんなさい」。死を決意した女性の言葉の重みに、私は打ちのめされた。南相馬市民、福島県民の苦痛と不安を代弁している彼女の声を、聞き逃してはならない。(南相馬通信部)


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毎日新聞 2011年7月19日 0時07分